第二新卒のエキスパート
当局までがそのような行動に出れば、この種の証券の価格はさらに下がってしまう。
次にこれらの証券固有の物理的問題だが、ここには2つのポイントがある。
その一つは、これらの金融商品のリスク特性は、これらの商品を実際に組成した人たちにしか把握できないという点である。
極めて高度な数学を駆使してつくられたこれらの商品は、外部の人たちがそのリスク特性を知ろうとしたら、その証券の構成部分である個々の金融商品の過去のデフォルト率などを一つ一つ調べ、それをもう一回組み合わせて全体のリスク特性を計測しなければならない。
その作業にはクウォンツと呼ばれる高度な数学の知識を持っているチームが必要であり、またその作業には一つの証券につき数週間の時間が必要だと言われている。
一度証券化された商品がさらに切り刻まれて別の証券に組み入れられると、作業が幾何級数的に増えていくからだ。
ということは、実際にこれらの商品を組成したクウォンツ・チームの人たち以外は中身がどうなっているかまったくわからず、もちろん私にもわからない。
デフォルトがないと思われるスーパーシニアと呼ばれる部分から、次にデフォルトのリスクが低いと思われるシニア、メザニン、エクイテイ(前述の意味とはまったく違う)と本来の住宅ロエクイティは最もデフォルト率が高い部分だけをまとめた証券として組成された。
リスクのいちばん低いスーパーシニアの利回りがいちばん低く、リスクがいちばん高いエクイティの利回りがいちばん高くなる。
しかもよせばいいのに、この一回分けたなかのシニアやメザニン部分を再度、スーパーシニア、シニア、メザニンに分けるなどして新たな証券が組成されていった。
このような構造のなかで住宅ローンのデフォルトが増加すると、当初のエクイティやメザニン部分が全損になるだけでなく、2回目の組成でシニアと思われていた部分まで大きな損失が発生しかねない事態となったのである。
ということは、最初の組成でスーパーシニアとされた部分を持っている人たちは住宅ローンのデフォルトから守られても、それ以下の部分で組成された証券を持っている人たちは場合によっては全損の危機に直面しているのである。
かなりリスク特性がわかっている人たちもなかなか手を出せずにいるのである。
格付け機関の手抜き評価がサブプライム問題をさらに深刻化させたそれでは中身のわからないこれらの証券をなぜあれほど多くの内外の金融機関が購入したかだが、それはこれらの商品の高い利回りに加え、これらの商品の内容を吟味する立場にあった大手格付け機関がこれらの商品に高い格付けをつけていたからである。
実際に今回のサブプライム問題では、格付け機関の怠慢が大きくクローズアップされることになった。
ここでは想像を絶する格付け機関の劣化が起こっていたからだ。
この十数年間で証券化商品が急速に増えたため、格付け機関に対する需要が急増した。
さまざまな資産を証券化して組み合わせていくと、外から見ていたのでは何が起こっているか、ほとんどわからない。
リスク特性もわからなければ、万が一途中で事故が起きた時、リターンがどういう影響を受けるのかもわからない。
そこで、さまざまな証券化商品が格付け機関に持ち込まれることになった。
証券化が進むなか、格付け機関の仕事は急増していったのである。
そうなると当然のことながら、厳しい格付けをする機関よりも甘めの評価をする機関に仕事が流れていく。
厳しくやっていた格付け機関も収益を考え、少し基準を緩めざるを得なくなる。
手心がどの程度加えられていたかについてはいろいろな意見があるが、かなり手抜きが行われていたことは確実である。
手抜きなしで厳密にやろうとすれば、前述のようにこのプロセスは一商品につき数週間もかかるからだ。
その結果、トリプルAとはとても呼べないような商品でトリプルAにするなど、高い格付けが付けられていたのである。
住宅バブルが弾け、デフォルトが急増すると、格付け機関はこれらの証券の格付けを一気に、しかも一斉に大幅に下げた。
投資家は「トリプルA」を買ったと思っていたのに、それが突然「ジャンクボンド」扱いにされてしまったのである。
それで慌てて投資家も売り急いだ。
するとますます値段が下がる、という悪循環が始まったのである。
それゆえ、アメリカではいま格付け機関に対して、ものすごい批判が噴出している。
実際、私はブッシュ政権の高官だった人と話す機会があったが、格付け機関に対する彼の怒りにはすさまじいものがあった。
どこか一つを血祭りに上げなければならないという口ぶりであった。
アメリカには格付け機関がS&P(スタンダード&プアーズ)とムーディーズの2つしかない(フィッチはヨーロッパ系)。
もし3つあれば、一つは必ず潰していたはずだと彼は言った。
そうしないと格付け機関への信用も規律も戻ってこないからである。
それくらい格付け機関に対する評価は地に墜ちている。
」バーナンキFRB議長が20O7年秋の議会証言のなかで、「格付けだけを参考にして金融商品を買うことは、デュー・デリジエンスをやったことにはならない」と発言したことも波紋を投げかけている。
いうことをエコノミストやアナリスト、場合によってはクウォンツ・チームや会計士や弁護士を入れて細かくチェックするプロセスである。
これは資産運用者が、彼らに資金を委ねている年金などの最終投資家に対して、自分たちは投資対象を充分調べた上で購入しましたと証明するプロセスでもある。
格付けを見て買うのがデュー・デリジェンスの範障に入らないと言われたら、誰もこの種の証券は買えなくなってしまう。
一部の商品には自前でクウォンツ・チームを持ったパーゲンハンターが入ってくるだろうし、また入ってきたという情報もあるが、高度で複雑な金融商品であればあるほどバーゲンハンターが入りにくい構図は残るのである。
サブプライム関連商品に投資している銀行は、これらの商品を預金者のお金で購入している。
その証券の価値が、例えば10O円と思っていた時に、5O円あるいは3O円、場合によっては2円になってしまったら、預金という銀行の負債はまだ10O円あるのに、サブプライム証券という銀行の資産はその数分の一の価値しかなくなってしまったということになる。
いずれの金融機関も同じようにこの種の債券を保有しているからその細部まではわからなくても相手がどのくらい恐ろしい財務状態に直面しているかはわかる。
金融機関は取引相手(カウンターパーティー)を信用できなくなってしまったのである。
各金融機関が他の金融機関に対して疑心暗鬼になり、カウンターパーティー・リスクを取ることができなくなれば金融市場は機能不全に陥り、なかには資金調達ができなくなって破綻する金融機関も出てこざるを得ない。
実際、ベアー・スターンズのように一万4OOO人も雇用している大手金融機関がほんの数十時間で破綻してしまった。
一カ月か2カ月かけて潰れていくのであれば、その聞に資金を回収する時間があるが、たった一日で潰れてしまうのでは資金回収もできない。
資金を回収できなかった担当者は、「潰れるとわかっている会社になぜ貸し出したのだ」と、上司から叱責される。
誰もがそう考えるから、お金が動かなくなる。
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